縫合不全

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ここでは縫合不全について説明します

縫合不全とは

縫合不全とは、「消化管を吻合したときに、吻合した部位から消化管の内容が漏れること」です。

消化器外科医が術後の合併症として一番気にするものといっても過言ではありません。

縫合不全は、吻合した腸管の血流不足や内圧上昇、吻合部の張力が関与すると考えられておりますが、術中に「この症例は縫合不全おきるなあ」と予測できるものではありません。

手術をどれだけ丁寧にやっても、きれいに出血も少ない手術でも縫合不全は起きてしまうことがあります。

縫合不全が起きるとどうなるか

縫合不全が起きると、消化管内の消化液や食物残渣、便などがおなかの中に漏れて感染を引き起こしてしまいます。

その結果、

  • 周囲に膿瘍形成
  • 汎発性腹膜炎への移行

などが起きる可能性があります。

膿瘍形成は文字通り、おなかの中に膿を形成した状態です。

皮膚にできた膿であれば、メスで切開して排膿という処置ができますが、おなかの中は同様のことが簡単にはできません。

腸やその他の臓器が邪魔しないような部位に膿瘍形成した場合は、おなかの外から針を刺し、それをガイドにチューブを膿瘍に向かって挿入しておなかの外に排膿することがあります。(ドレナージ)

縫合不全による感染が局所に限局していれば膿瘍形成で済みますが、感染がおなか全体に広まった場合、「汎発性腹膜炎」という、おなか全体の感染に移行することがあります。

この場合、汎発性腹膜炎によって全身の感染である敗血症を引き起こすことがあるため、おなかの中をきれいに洗浄して感染を防ぐことが重要で、緊急手術が必要になることが多いです。

基礎疾患や全身状態、縫合不全の穴の大きさにもよりますが、皮膚の傷が治るのと同じように縫合不全も時間をかければ自然にふさがることが多いです。

ただ、穴から何かが出続けている状態では自然に閉鎖しにくいので、吻合部にものが通らないようにしてあげる必要があります。

その方法として、胃の縫合不全であればNGチューブ、大腸の縫合不全であれば人工肛門が選択されることが多いです。

それぞれについて詳しく解説していきます。

胃の手術の場合

胃の手術における縫合不全では、胃液や食物残渣が腹腔内に漏れてしまうことになります。

漏れている量が少量で、おなかに入れたチューブから漏れたものが回収できる程度であれば、感染が拡大する可能性が低いので、保存的に経過観察として穴が自然にふさがるのを待つという方法をとることもあります。

ただ、上記のように縫合不全部に食物や消化液が絶えず通っていると、自然閉鎖しにくい状態になります。

胃における縫合不全では、胃液などの消化液が漏れることになるので、それらが漏れないようにするには、消化液を胃の外に出してあげることが重要です。

そのため、鼻から胃の中に経鼻胃管というチューブを通して、持続的に吸引することで胃の内容を体外に排出し、縫合不全部を安静にして、しばらくその状態で絶飲食にすることで穴がふさがることを期待します。

縫合不全の穴が自然閉鎖が見込めないほど大きい場合には、再手術を行い、再吻合する場合もあります。

大腸の場合

大腸における縫合不全では、食物残渣というよりは食べたものが便になった状態で漏れることになります。

大腸の場合も、漏れた量が少量であれば保存的に経過観察となることもありますが、胃の手術における縫合不全のように、腸管内容を吸引して安静にすることができないため、大腸の手術における縫合不全では、人口肛門という選択肢をとることが多いです。

人工肛門とは、本来の肛門よりも口側の腸管を体外に引き出してきて、そこから便やガスを排泄するようにすることを言います。

縫合不全の時に人工肛門を作る場合、縫合不全部よりも口側の腸管で人工肛門を作りそこから便を出すようにすることで、縫合不全部に便が流れないようになるため安静にすることができます。

人工肛門を作れば食事を摂ることもできるようになるので、その状態で穴がふさがるのを待ち、数か月間人工肛門の状態で生活して、穴がふさがった頃に人工肛門をなくす手術を改めて行うというように、2期的に治療をすることがあります。

膵臓の場合

膵臓と腸を吻合した場合の縫合不全では、食べたものが悪さをすることはほとんどありません。

膵臓には膵液というタンパク質を消化する働きを持つ消化酵素が含まれており、膵臓と腸を吻合した場合の縫合不全では、この膵液が主に腹腔内に漏出することになります。

膵液が腹腔内に漏出するとその周囲の臓器が炎症を起こし、膿瘍を作ってくることもあるため、ドレナージを行うこともありますが、膵臓の縫合不全ではさらに注意するべきことがあります。

膵臓と腸を吻合する手術においては吻合部の近くに太い血管が走行しているため、縫合不全によって膿瘍形成などが起きるとその血管にも炎症が波及して、血管に仮性動脈瘤という動脈瘤を作ってくることがあります。

仮性動脈瘤ができるだけでは身体に悪さをすることは少ないですが、その仮性動脈瘤が破裂すると大量に腹腔内に出血してしまうため、早急に止血する必要があります。

緊急手術を行い開腹して直接出血点を確認して止血する場合もありますが、腹腔内出血に対して手術をすると、血の海の底にある小さな出血点を探す必要があり、容易ではありません。

最近ではカテーテルによる血管内治療の技術が発達してきたため、カテーテルで出血している血管を直接詰めて止血することが多いです。

最後に

このように、縫合不全を起こすと術後の処置や再手術が必要になることがあります。

全ての外科医が合併用など起きてほしくないと思っていますが、どれだけきれいな手術ができても縫合不全は一定の確率で起きてしまいます。

そのため、手術終了時に、縫合不全が起きる可能性が高いと考えられる部位には近くにドレーンというチューブを置いてきて、持続的に陰圧をかけることで縫合不全が起きていないかを早期に確認できるように、起きていても被害が最小限で済むようにしてきます。

縫合不全が起きてほしいと思っている外科医は一人もいません。

どうか起きないことを願うとともに、起きた時も最小限の被害で済むように心から願っています。

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