今日は、私が外科医として勤務していた時に経験した、
印象的な症例について紹介したいと思います。
なぜこんな記事を書こうと思ったかというと、
「こんなすごいことをしてたんだぞ!」というひけらかしではなく、
外科医をやっててよかったと思えた症例だったからです。
医学生、研修医の先生方で、
進路を悩んでいる方もいると思いますので、
外科の魅力を少しでも感じていただけたらと思います。
少し専門的な用語が入ったりするので、
一般の方はなじみにくかったらすみません、、
背景
この症例は、私が外科医になってちょうど一年くらいのことで、
少しずつ患者さんを一人で診させてもらうようになってきた頃でした。
とある平日の日中に救急外来から連絡があり、
「大腸穿孔で急性腹膜炎の患者さんがいます!」とのことでした。
『大腸穿孔で急性腹膜炎』とは、
何かしらの理由で大腸に穴が開いてしまって便がおなかに漏れ出たことにより、
おなか全体の感染(腹膜炎)に至った状態のことで、
命に係わるような状態といえます。
大腸穿孔を認めた場合、
ほとんどの症例で緊急手術が適応になるため、
患者さんを診に行く途中で既にドキドキしながら救急外来に向かっていました。
症例
詳細までは覚えていませんが、
年齢 80代
性別 女性
既往歴 特になし
内服薬 特になし
現病歴 夜くらいから急におなかが痛くなり、日中に我慢できなくなり救急要請して救急外来を受診
みたいな感じだったと思います。
血圧、脈拍はショック状態で、
おなかの触診では腹膜刺激兆候を認めており、
CTも大腸穿孔による急性腹膜炎の初見だったため、
すぐに緊急手術の判断に至りました。
手術は開腹手術で、ハルトマン手術を施行しました。
術後経過
手術は何とか終わりましたが、
手術中に呼吸状態があまり良くなかったため、
集中治療室でも人工呼吸器での呼吸管理が必要でした。
手術が終わったのは夜でしたが、
血圧管理や人工呼吸器管理など慣れないことも多く、
いろいろと調べて上級医と相談しながら管理していくことになったのですが、
夜間は家に帰るのが心配で、
その日は病院に宿泊して集中治療室につきっきりでした。
その後、血圧は落ち着いてきたのですが、
人工呼吸器からの離脱がなかなかできなかったので、
術後2週間くらいで気管切開をすることになりました。
無事に気管切開も済み、呼吸状態も徐々に良くなってきた頃
鎮静を覚まして人工呼吸器から離脱していこうという方向になったのですが、
鎮静薬を切って自発呼吸はしっかり出てきているのに、
なかなか覚醒してこないんです。。。
当時、鎮静薬としてはミダゾラムを使用しており、
高齢でありRASSも低かったので、ごく少量しか流してなかったのに、
拮抗薬のフルマゼニルを投与しても変わらず、
脳梗塞や出血などの所見もなく、
神経内科に脳波を診てもらっても特に異常はなし。
原因がわからず数日が過ぎていました。
そんなある日、
急に眼が開き、意識が戻ってきたのです!
ミダゾラムは、長期間投与していると蓄積されて過鎮静になる
ということは聞いていたのですが、
RASSを確認しながら調整していたので投与量もあまり多くなかったですし、
フルマゼニルを投与したのに回復せず、
原因がわからなかったので、
先が見えずとても不安だったところに光が差した!という感覚でした。
意識が戻ってからも状態は回復傾向にあり
本人と意思疎通ができるようにスピーチカニューレに変更することにしました。
術後から約1か月、
救急外来で診察した時以来の発声です。
その時の第一声が、
「先生ありがとう。看護師さんありがとう。」
だったのです。
あぁ。頑張ってよかったなぁ。
とほんとに心から思いました。
涙こそ出ませんでしたが、
じんわり胸が熱くなりました。
その方はそれからリハビリを経て、
術後3か月くらいで退院になりました。
この症例で学んだこと
この症例で私が学んだことは、
①状態が悪くても救える命があること
②ミダゾラムの長期投与による過鎮静
③外科医のやりがい
です。
この症例は、
救急外来で診察した時にはすでにショックの状態で
高齢ということもあり
手術前に患者家族には
救命できない可能性も含め、厳しい説明をしていました。
実際、本当に救命できるか微妙なところだったと
ある程度の数を経験した今でも思います。
それでも各スタッフが尽力することで救えたということに
日本の医療技術の高さを感じましたし、
外科医としてホヤホヤの私にはとても刺激的な日々となりました。
その後は自分の好みもあって
集中治療ではデクスメデトミジンを使用することが多くなりましたが、
ミダゾラムを高齢者に長期投与することで起きる過鎮静を
肌で感じることができたことはとても勉強になりました。
手術してから集中治療室での治療期間、
病棟へ移ってからも気の抜けない全身管理、
病棟には担当の患者さんが他にも何人もいる中で、
毎日別の手術もこなしながら、
同時進行で進めていく日々は本当に大変でした。
これを平気な顔でこなしている上級医の先生たちすげぇって思いました。
私にこんなことできるのかって。
それでも、「あぁ。これが外科医のやりがいか。」って思いました。
今は麻酔科医に転科しましたが、
これこそ外科医の魅力・やりがいであって、
うれしい瞬間だったと思ってます。
数年して慣れてくると、
ヒィヒィ言いながらやってた頃よりは
少しは余裕をもって対応できるようになりましたが、
やっぱり、初めての症例は忘れられませんね。。。
まとめ
以上、
私が外科医時代に経験した、印象に残った症例を紹介しました。
国試の勉強の時に見たビデオ講座で授業してくれる先生が、
「臨床の先生は病気や治療を丸暗記しているのではなく、経験した症例に紐づけて覚えている。」
って言ってたんですけど、
自分が臨床医になってみると本当にその通りで、
経験が知識を深くするなぁって日々感じます。
最近は働き方を言われることも多く、
外科医の大変な面が見られがちで、
改善していかないといけないところも多いのは事実ですが、
魅力ややりがい、楽しい面も見た上で
『外科』という分野を評価してほしいなって思います。
医学生、研修医の先生方の中で外科を含めた進路に迷っている方へ、
少しでも外科の魅力が伝われば幸いです。
ではでは~
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