鼠径ヘルニアの術式について

別の記事「鼠径ヘルニア」で、
鼠径ヘルニアの手術には大きく、鼠径部切開法と腹腔鏡があるということを書きました。


・どんなときに鼠径部切開法が選ばれる?
・どんなときに腹腔鏡を選ぶ?
・どちらも選べるならどう考える?
 → 外科医の視点から、術式選択のポイントをお伝えします

鼠径部切開法のみ選択可能な場合

これは逆に、腹腔鏡手術ができない場合というイメージです。

腹腔鏡手術をするとなると、全身麻酔が必要になります。
全身麻酔がかけられない原因としては、
例えば、
・心臓に持病がある
・肺などに重度の呼吸器疾患がある
・どうしても全身麻酔が怖くてやりたくない
などがあります。

全身麻酔をかけるとなると、どうしても心臓や肺に負担がかかってしまいます。
術前検査で心機能や呼吸機能が非常に悪い場合には、
「鼠径ヘルニアは治りましたが、心臓が止まっちゃいました」
なんてことにならないように、
手術の必要性、術式と全身麻酔をかけることのリスクを天秤にかけて、
麻酔科、執刀医で相談して決めることになります。

また、私も外科医として勤務している時に経験ありましたが、
患者さんが、「どうしても全身麻酔が怖くてやりたくない」
という理由で全身麻酔を選択できないこともありました。

以前に鼠径ヘルニアを腹腔鏡で手術しており、
それが再発してきたときの手術に関しては、
鼠径部切開法が選択されるパターンも多いです。

これは、術者の考え方や技術にもよりますが、
消化器外科、ヘルニア手術に限らず、どの手術においても、
「一度手術したところをもう一度手術する」
という場合、
組織と組織の癒着が起きており、手術の難易度が劇的に上がってしまいます。

だいぶ前のことですが、
腸と腸の癒着剥離の様子をSNSで表現している人がいまして、
初回手術では、さーーっと剥がれていくのに対して、
癒着した腸をはがすのは、「くっついた餃子をはがすような感じ」
という表現(その方は動画で示してましたが笑)をされていました。

剥がれる餃子はきれいに剝がれるのですが、
くっついた餃子を、皮を破らずに剝がすのは至難の業ですよね?
そんな感じで、
無理にすると組織(臓器)が損傷してしまいますので、
一度やった手術をもう一度やりたいなんていう
マニアックな先生はあまりいないんじゃないかと思っています。(いたらすみません、、)

鼠径ヘルニアの場合は、鼠径部切開法と腹腔鏡の術式が確立されているので、
再発の手術では、できれば前回と別の方法でアプローチして修復したい
という考えの先生が多いのではないかと思います。

まあ、アプローチを変えても、
鼠径部切開法での初回の手術よりは難易度が高くなることが多いんですけどね、、

腹腔鏡のみ選択可能な場合

反対に、鼠径部切開法ができない場合というのはあんまりないです。

なぜなら、鼠径部切開法の場合、全身麻酔でなくても手術ができるからです。

鼠径部切開法とは、文字通り鼠径部を切って穴をふさいでくる手術です。
手術で操作する範囲が狭いため、
脊椎麻酔や硬膜外麻酔という、下半身や身体の局所に効く麻酔でも手術が可能なので、
「鼠径部切開法の時は腰椎麻酔でやる」という施設も多いと思います。
※私の経験的に、硬膜外麻酔だと鎮痛の効きがイマイチで、手術中に局所麻酔の追加が必要になることもあります。

病院や施設によっては、鼠径部切開法も全身麻酔で行っていますが、
そういった施設でも、全身麻酔がかけられないような症例では、
腰椎麻酔や硬膜外麻酔で手術することもあります。

実際、私が前に勤務していた病院では、全身麻酔で鼠径部切開法を行っていましたが、
全身麻酔に高いリスクがある場合は腰椎麻酔に切り替えていました。

ただ、抗凝固薬(いわゆる血液サラサラ薬)などを内服していると、
腰椎麻酔や硬膜外麻酔のリスクが高くなるので、
全身麻酔で行うか、腹腔鏡手術にするか、といった判断が必要になります。

あとは、前述したように、
以前に鼠径部切開法で手術したけど、そこが再発してきた鼠径ヘルニアの手術に関しては、
腹腔鏡手術が選択されることが多いと思います。

どちらも選択可能な場合

これに関しては、ほんとに術者、各施設の好みや方針によります。

傷の大きさや場所で決めるのであれば、
・鼠径部切開法なら、鼠径部に5cmくらいの傷
・腹腔鏡手術なら、臍とその横に各5~10mmくらいの合計3か所の傷

鼠径部切開法なら、傷が水着や下着で隠れるかも
腹腔鏡の10mmの傷なら、きれいに縫えばほとんど目立たないくらいに治るかも

個人的な印象としてはそんな感じです。

「傷とかあんまどうでもいいから、先生がいいと思う方でお願いします!」
と言われたら、
私なら腹腔鏡手術を選択していました。

全国的にも、腹腔鏡が第一選択という施設が多いと思います。

再発や合併症の差はあまりないですが、
私が腹腔鏡を選択する理由は、
ズバリ、「おなかの中から見た方がわかりやすい」からです。

鼠径ヘルニアにはいろんな種類があって、
内/外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、膀胱上窩ヘルニアなどたくさんあります。

鼠径部切開法だと、各々少しずつ手術の仕方が違ってくるので、
一度の手術ですべてを確認して修復することは現実的に難しいですが、
腹腔鏡なら、おなかの中からどこの部位に穴ができてヘルニアを発症しているのか
という診断が容易にできます。

また、腹腔鏡では各ヘルニアの種類によって術式が劇的に変わることはなく、
腹膜の剥離範囲を広くしてメッシュを敷くことで、
別のタイプの鼠径ヘルニアも同時に修復することは可能です。

そういった観点から、私は腹腔鏡手術を第一に選択していました。

術式選択については、
主治医や施設の意向が強く出ますし、
やむを得ずいずれかの術式を選択している場合もあります。

もちろん、施設や患者さんの状態によってベストな選択は変わります。
今回は一例として私の経験を紹介しました。

最終的には主治医とよく相談して決めるのが一番ですが、
こんなことを考えて決めているんだなあ、と
参考になってもらえればうれしいです♪

ではでは~

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