麻酔、周術期鎮痛の選択で考えていること

今まで、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔、末梢神経ブロックについて勉強していきました。

では今回は、私が手術の麻酔をかけるときに、
全身麻酔、局所麻酔、
硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔、末梢神経ブロックなどを
どのようにして選択しているのかを整理していきたいと思います。

あくまで私個人の考えなので、
症例や施設によって最適解は異なると思いますし、
一つの考え方として参考にしていただければ幸いです。

全身麻酔か局所麻酔か

まずは全身麻酔にするか、局所麻酔(±鎮静)にするかの選択です。

「胃癌に対して6時間の開腹手術です。」と言われれば、全身麻酔は必要な気がします。

「包丁で指を切ったので傷を縫います。」と言われたら、さすがに全身麻酔はやりすぎな気はします。

ただ、この間に全身麻酔と局所麻酔の境界があるわけです。

そして、その境界はきれいな線で引けるものではなく、
個々の症例や施設によって適宜変えるべきものだと思います。

虫垂炎の開腹手術も脊髄くも膜下麻酔で行っていた時代もありますし、
指の傷を縫うだけでも、
精神疾患があって縫合の時間だけもじっとしていられないような症例や、
指示に従えないような子どもであれば、
全身麻酔はやりすぎでも、鎮静をかけるという選択はあるかもしれません。

侵襲としてはそれほど大きくない手術だとしても、
4時間や6時間、もしくはもっと長時間、
「動くと危ないからじっと寝ててください。」と言われたら結構つらいですよね。

その場合は全身麻酔で寝かせてあげた方が苦痛は少ないかもしれません。

こんな感じで、全身麻酔は手術(処置)を行う上での
あくまで補助的な役割だと私は思っています。

極論、すべての手術(処置)を全身麻酔ですることはおおむね可能なのですが、
それはあまりにもやりすぎですし、医療経済的にも問題になってくると思います。

といっても、判断が難しい時もあると思うので、
私も麻酔決定に使っている考え方を書いておきます。

麻酔決定の流れ


・区域麻酔が有用でない症例
例)新生児、小児、頭頸部・顔面手術、感染症、循環不全、ショック
・凝固能に問題あり
 → 全身麻酔のみ


・手術部位が臍部以下、手術時間2~3時間以内、効果発現が迅速に必要
例)鼠径ヘルニア手術、経尿道的な泌尿器手術
 → 脊髄くも膜下麻酔

・手術部位が頸椎より下位、麻酔範囲が分節でよい、迅速な効果発現が必要ない
 → 硬膜外麻酔

・手術部位が神経叢の領域に限局している
例)四肢の整形外科手術
 → 末梢神経ブロック


脊髄くも膜下麻酔の適応だが、持続的な術後鎮痛も必要
例)帝王切開
 → 脊髄くも膜下麻酔併用硬膜外麻酔(CSEA)


上記条件に該当するが、手術時間が長時間に及ぶ
 → 全身麻酔も併用

こんな感じで考えてますので、
研修医の方や麻酔初学者の方の参考になればと思います。

外科的な観点での区域麻酔の選択

ここまでは、麻酔科としての麻酔法の選択を見ていきました。

ここからは、私が外科医として麻酔をかけてもらう側の立場だった時の印象と、
それを踏まえた麻酔法の選択を、
自分の記憶の固定も兼ねて、ほんの少しだけ書いておこうと思います。

前方アプローチでの鼠径ヘルニア修復術

私が外科として勤務していた時、
ある施設では、前方アプローチでの鼠径ヘルニア修復術については、
基本的には全身麻酔ではなく区域麻酔のみで行っていました。

前方アプローチでの鼠径ヘルニアの手術は、
鼠径部のみの操作で、手術時間も早ければ1時間以内であり、
さっきの麻酔決定の流れに準じても
区域麻酔のみで完結できる手術と考えられます。

ただ、その施設で選択する区域麻酔が硬膜外麻酔だったので、
鎮痛の効きが弱かったり、手術とは反対側に強く効いていたり、など
術野で局所麻酔が必要なパターンもあり、少し不便を感じていました。

それに比べて、脊髄くも膜下麻酔で行った場合、
鎮痛効果が得られるまでの時間も迅速で、
体位変換することで、左右の効き具合もある程度調節することができます。

この経験を踏まえ、
迅速に鎮痛効果を得たい時や区域麻酔のみで手術を行う時には
硬膜外麻酔よりも脊髄くも膜下麻酔の方が
麻酔法として適しているということを学びました。

腹腔鏡手術に硬膜外麻酔

腹部手術においては、
術後の鎮痛も兼ねて硬膜外麻酔を選択することが多々あります。

開腹手術の場合、手術創も大きくなりがちですし、
内臓痛も視野に入れるのであれば硬膜外麻酔は素敵な選択だと思います。

ただ、『腹部手術→硬膜外麻酔』と画一的に選択をしている方もいるようで、
腹腔鏡下胆嚢摘出術や腹腔鏡下ヘルニア修復術にも
全身麻酔+硬膜外麻酔を選択されることがありました。

内臓痛や術後も長時間の疼痛コントロールをしたいということなのかもしれませんが、
私たち外科医側からすると、少し観点が違いました。

鼠径ヘルニアの手術は経過が良ければ手術翌日には退院になるケースが多く、
腹腔鏡下胆嚢摘出術も、手術翌々日には退院になることが多かったです。

硬膜外麻酔を併用すると、数日は硬膜外麻酔から鎮痛薬が流れることになります。

疼痛に対してはすごく良いのですが、
硬膜外麻酔によって排尿困難を訴える方がいるため、
病院や病棟によっては、
硬膜外麻酔が入っている間は膀胱カテーテルを留置しておく
というルールがある場合もありました。

そうすると、患者さんは退院直前まで背中に硬膜外カテーテル、
さらに膀胱カテーテルもぶら下げて術後の入院生活を送ることになります。

そうしてまでも鎮痛の希望があればそれでもいいのですが、
腹腔鏡下ヘルニア修復術、腹腔鏡下胆嚢摘出術の創部の痛みであれば、
内服の鎮痛薬を定期で内服することである程度コントロールできていた
というのが、私の印象でした。

麻酔科医が介入するのであれば、
硬膜外麻酔をよりも末梢神経ブロックを選択する方が
患者満足度は高いように思いましたし、
スマートな麻酔に思えました。

硬膜外麻酔だとしてもすぐに抜去したらいいんですが、
薬液が残っている状態で抜去・破棄するのは、少し心苦しく感じることもありました。

最後に

麻酔科医は周術期に患者さんとかかわることはありますが、
退院まで関与することはあまりないんじゃないかと思います。

周術期の鎮痛にフォーカスを当てて麻酔法を決定することは間違ってないと思いますが、
私は外科医としての経験があるからこそ、
入院中の生活や退院までの経過、
外科医として術野に立っていたときに感じた違和感や不便さ、
なども考えて麻酔法を決めていきたいですし、
麻酔科医として麻酔法を選択する現在の自分に影響していると思います。

麻酔法に絶対的な正解はありません。
同じ症例でも麻酔科によって選択する麻酔法は違うことも往々にしてあります。
その症例、その施設、そのチームにとっての最適解を探すことが、
麻酔科医の仕事だと私は思っています。

もう一つ、麻酔法の決定に困ったら、
主治医や執刀医に相談してみるのも悪くないと思います。

そうやって相談してくれる麻酔科医の方が、
患者さんファーストな麻酔を心掛けているのだと思えましたので。。

私自身も、消化器外科以外の麻酔についてはまだまだ勉強中の身なので
色々な診療科の先生とコミュニケーションをとっていけたらと思います!

ではでは~

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