小児の困難気道症例について

先日、小児の麻酔をかけるときに
主科の先生から
「トリーチャー・コリンズ様顔貌です。」って言われました。

トリーチャー・コリンズ、、、?
成人消化器外科医時代には聞くことのない疾患でしたので
(勤勉な先生方は知っているかもしれませんが、、笑)
正直なところ初耳でした。

教科書やネットで調べ指導医に確認すると、
「小児麻酔をしている人で
トリーチャー・コリンズとピエール・ロバンを知らない人はいないよ」
と言われました。

そんな疾患を知らなかったショックと同時に
「ピエール・ロバン症候群」という新しい単語もさらっと出てきたので、
今回は2つの症候群と困難気道症例に対する対策について
勉強して記事に残そうと思います。

私と同じように
「そんな病気知らなかった。」という人も
困難気道について対策を立てたいという人も
ぜひ一度読んで一緒に勉強していってください!

ではさっそくやっていきましょう!

トリーチャー・コリンズ症候群

概要

トリーチャー・コリンズ(Treacher Collin’s)症候群とは、
遺伝異常によって発症し、
頬骨・下顎骨の発育不全、眼裂外下方偏位、下眼瞼外側部分欠損、外中耳奇形など
顔貌症状を呈する先天性疾患です。

疫学・原因

発症率は約50,000~100,000人に1例とされており、
原因遺伝子として考えられているTCOF1、POLR1B、POLR1C、POLR1Dのうち、
TCOF1の異常によるものが全体の約80%を占めるとされています。

遺伝形式は、
常染色体顕性(優性)遺伝を呈することが多いですが、
常染色体潜性(劣性)遺伝を呈することもあります。

症状

主な症状としては、
頬骨・下顎骨の発育不全(顔面低形成)
眼裂外下方偏位
下眼瞼外側部分欠損
外耳道閉鎖、中耳腔異常、耳小骨異常
口蓋裂
があげられます。

下顎低形成によって気道狭窄が引き起こされ呼吸障害を認めたり、
手術の際には挿管困難となることがあるため注意が必要です。

外中耳奇形により伝音難聴を約9割に認められます。

基本的に知的障害を伴うことは少ないです。

ピエール・ロバン症候群

概要

ピエール・ロバン(Pierre Robin)症候群は、
正確な原因や機序は不明ですが、
小顎症、舌根沈下、気道閉塞を3主徴とする先天性疾患です。

疫学・原因

発症率は2,000~30,000人に1例とされており、
正確な原因や機序は不明ですが、
SOX9遺伝子やその近傍の遺伝子異常によって起きるものがあるという報告があります。

症状

ピエール・ロバン症候群の3主徴としては、
小顎症
舌根沈下
気道閉塞

があげられます。

これは、
顎が小さい(小顎症)

舌が後方に落ち込む(舌根沈下)

上気道が閉塞する(気道閉塞)
という一連の病態を表しています。

新生児期から発症しているため、
出生時の呼吸困難や
乳児での閉塞性睡眠時無呼吸症候群、
手術の際には挿管困難になる可能性にも注意が必要です。

2つの疾患について少し学べたところで、
「じゃあ、困難気道の症例にどう対応したらいいの?」
というところについても少し勉強していきましょう。

マスク換気困難に対して

挿管する前にはマスク換気が必要になりますが、
そもそも困難気道の場合、
マスク換気が困難である可能性があります。

マスク換気困難の対応としては、

  1. 人員を確保する(別の麻酔科医など人を集める)
  2. 酸素濃度の上昇
  3. 両手でマスクを保持、2人法で換気
  4. 経口/経鼻エアウェイの挿入
  5. 筋弛緩薬の投与 or 筋弛緩薬の拮抗
  6. 気管挿管を試みる

といった順番になります。

ただ、気管挿管を試みるといっても
困難気道の場合は気管挿管も困難であることが予想されます。

気管挿管においても十分に準備をしておく必要があります。

挿管困難に対して

デバイスの選択

直達喉頭鏡で挿管困難となる場合は、
・ビデオ喉頭鏡
・エアウェイスコープ
・気管支ファイバースコープ
・声門上器具を通した挿管
などのデバイスを選択することも検討します。

最近では、
直達喉頭鏡ではなく
最初からビデオ喉頭鏡を使う施設も多いかもしれません。

声門上器具を通した挿管とは

私と同じように
「声門上器具を通した挿管ってどういうこと?」
ってなった方のために
声門上器具を通した挿管について学んでいきます。

イメージを湧かせるために
手順を見ていきましょう。

  1. 準備の時点で声門上器具の中をチューブが通ることを確認しておく
  2. 声門上器具を挿入する
  3. チューブを通した気管支ファイバースコープを声門上器具に通して声帯を超える
  4. ファイバーをガイドにチューブを進めて留置
  5. ファイバーを抜去
  6. チューブが抜けないように注意しながら声門上器具を抜去

準備としては、
最後に声門上器具を抜く時に
せっかく挿入したチューブが一緒に抜けないように、
抜去用のスタイレットを用いたり
気管チューブを2本連結させて長くしておく必要があります。

マスク換気も挿管も困難の時

上記のように様々な手を尽くした結果、
マスク換気と気管挿管がいずれも困難な状態のことを
CICV(cannot intubate cannot ventilate)とよばれます。

CICVに陥った場合、
マスク換気や気管挿管をチャレンジし続けながら、
輪状甲状間膜穿刺輪状甲状間膜切開の準備・施行、
蘇生処置ECMOの準備を進める必要があります。

まとめ

トリーチャー・コリンズ症候群とピエール・ロバン症候群は、
いずれも「小顎」を共通点とし、
困難気道となるリスクが高い疾患です。

麻酔科医として重要なのは、
疾患の細かい遺伝学的背景や病態よりも、
困難気道になり得る」という事実を事前に察知し、
準備を整えておくことです。

困難気道への対応は、
その場の対応力ではなく “事前準備の質” で決まります。

・どのデバイスを使うか
・次の一手は何か
・最悪のシナリオ(CICV)にどう備えるか

これらをあらかじめ想定しておくことが、
患者さんの安全に直結します。

日々の麻酔の多くは何事もなく終わりますが、
『何かあった時に命に直結する
それが麻酔科医の仕事です。

だからこそ、
“何も起きないための準備” を積み重ねていきたいですね。

私も日々準備を怠らないようにしようと思いますし、
皆さんが安心安全な麻酔をかけられることを願っています!

ではでは〜

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